バングラデシュニュース

バングラデシュの優秀な人材を中国が総取りか

南アジアのIT人材争奪戦で日本が惨敗する理由
バングラデシュの優秀な人材を中国が総取りか

バングラデシュの人材情報に関する2018年8月7日の記事をお伝えいたします。

世界的なIT人材不足が叫ばれる中、日本企業もグローバルな人材調達が迫られるようになった。日本では、2030年に59万人のIT人材が不足すると言われている。

人材の調達先としてベトナムやフィリピンなど東南アジアに注目が集まっている。だが、今や南アジアにも視野を広げなければ人材獲得競争から脱落してしまう時代になった。南アジアで最もポテンシャルが高いといわれるのが、バングラデシュの人材だ。バングラデシュでは、IT人材を育成しようと政府主導で「デジタルバングラデシュ」を進めている。

「日本では毎年70万人の労働人口が減っていますが、バングラデシュでは毎年140万人増えています。労働力不足に悩む日本と雇用不足に悩むバングラデシュは、最も補完し合える関係なのです」と、国際協力機構(JICA)南アジア部の弓削泰彦氏は語る。JICAは目下、日本市場をターゲットとしたIT人材育成プロジェクトを推し進めている。

しかし、南アジアに対する“勘”が働かない日本企業の腰は重い。首都ダッカに在住する綿貫芳樹さん(仮名)は、次のような危機感を抱く。

「このままでは親日人材も含めてバングラデシュの優秀な人材を根こそぎ中国に持っていかれてしまう」

「一帯一路」構想を進める中国は、バングラデシュとのパートナーシップ構築に積極的だ。習近平国家主席は2016年に同国を訪問し、繰り返し「フレンドシップ」という言葉を使った。現地の日本人の間では、「ダッカの日本人殺害事件(当コラム2016年7月12日付に詳細)で往来を控えた日本の隙をついて、中国がアピールを強めた」とも言われている。

中国とバングラデシュの間にはさまざまなプロジェクトが立ち上がり、中国の民間企業もバングラデシュへ続々と進出している。中でも、通信機器メーカーの華為技術(ファーウェイ)は数年前からバングラデシュでの事業に力を入れている。

 同社は今年(2018年)7月にダッカで「バングラデシュ5Gサミット」を開催した。5Gはこれからの自動運転時代、IoT時代に不可欠な技術だが、それを「最貧国」を脱したばかりのバングラデシュに持ち込もうとしているのだ(バングラデシュは2013年に1人当たりの名目GDPが1030ドルとなり、最貧国の目安となる1000ドルを超えたばかりである)。

 バングラデシュでのこうしたイベントの開催は、優秀なIT人材の獲得にもつながる。バングラデシュで最も優秀なIT人材を輩出する大学と言われるのがダッカ工科大学(BUET)である。バングラデシュにある5つの工科大学の最高峰であり、BUETのコンピューターサイエンス&エンジニアリング学部は、募集枠60人に対して、近年は3000人を超える学生が殺到するという。BUET卒業生の多くは、アップルなど「アメリカのビッグ5」に就職すると言われるが、ファーウェイが卒業生たちの就職先として名乗りを挙げているというわけだ。

だが、日本企業のバングラデシュ企業への反応はにぶい。ブースに立つ担当者は「日本企業の顧客はまだゼロです。バングラデシュ企業に対して、『どこの馬の骨か分からない』という猜疑心が払しょくできないようで、商談は先に進みません」と明かす。

 アジアのIT人材に詳しいジョイント・アジア代表の杉本希世志氏は、「バングラデシュが、IT大国であるインドやアメリカの下請けとして成長してきたことを考えれば、その実力は疑うべくもありません」と語る。しかし残念ながら、日本にはバングラデシュのIT人材を正当に評価できる企業はほとんどないのが現状だ。

冒頭で述べたように、日本のIT企業とバングラデシュのIT人材は補完関係が成り立つ。だが、なかなかマッチングはうまくいかない。

 日本の人材派遣・紹介業界では一早くバングラデシュの人材に注目してきたリンクスタッフ代表取締役の杉多保昭氏はこう語る。「日本の市場に人材の橋渡しをしようとBUETを訪問しても、正直なところ、なかなか相手にされません」。バングラデシュのIT人材の多くは、残念ながら日本で働きたいとは考えていない。

 その理由の1つとして、日本企業のアジア人材に対する“上から目線”があるようだ。米国企業は主要なポジションにバングラデシュ人を配置するが、日本企業は単なる下請けとしてしか考えていないところが少なくない。

 米国企業ではアジア人材が第一線で活躍し、さまざまなイノベーションを生み出している。米半導体大手のクアルコムでエンジニアリング部門のシニアディレクターを務めるエッサンウル・イスラム氏はこう語る。「日本企業もどんどんバングラデシュの人材を活用してイノベーションを生み出すべきです」。